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札幌高等裁判所 昭和57年(く)32号 決定

少年 J・N(昭三八・九・一六生)

主文

原決定を取り消す。

本件を札幌家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、少年が提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

抗告の理由一について

所論は、原決定の処分は著しく不当である、というのである。

記録を精査し当審における事実取調べの結果を合わせ検討すると、少年は、高松市に居住する両親のもとで生育し、香川県内の高等学校に在学中、喫煙などの非行で謹慎処分を受け、昭和五四年一一月同校を中退したが、右中退の前後にかけて他の少年とともに窃盗の非行をし、次いで昭和五五年七月右翼団体に入会しその活動の一環として暴力行為等処罰に関する法律違反(ビラ貼りによる器物毀棄)等の非行をし、昭和五六年三月高松家庭裁判所で保護観察処分に付されたこと、その後、少年は、自衛隊を志望し、同年一〇月保護観察処分の解除を受け、同月自衛隊に入隊したが、昭和五七年三月配属先の函館市で勤務中、上官との間にトラブルを起こしたことが契機となつて除隊し、その後は、札幌市に赴き、同地の右翼団体に入会し、同団体事務所に起居するうちに、原決定の「非行事実」欄掲記の一、二の非行を行つたこと、そのうち、一の非行事件は原決定も指摘するようにその罪質は悪質であるのに、少年のこれについての罪悪感及び反省心が乏しく、その後まもなく二の非行を行つたことが認められ、これらの各非行にいたる経緯、その態様、罪質、少年の前歴等を考慮し、さらに、少年は知能は正常であるが、思慮は未熟かつ単純で、性格上も問題がないわけではないが、しかし、本件各非行事件は、いずれも、少年が右翼団体に所属する成人を含む七、八名の者らと行つたものであり、少年の果たした役割及び地位はいずれも、従属的、追随的なものにすぎないこと、少年には非行歴があるが、そのうち、窃盗非行の関係については再発の形跡は全く認められず、また、暴力行為等処罰に関する法律違反の非行関係については、前回の非行と今回のそれとの間に動機の点等において共通性は見られるが、前者と比較して今回のそれが格段に進行した非行性の発露であるなどとは認め難いこと、少年に対する保護観察処分は僅か半年間で解除されたためその効果は見定め難いが、記録によれば、同期間中、少年は職業の面では勤勉さを示し、両親及び兄妹ともよく和合し、毎月の保護司への状況報告も欠かすことがなく、良好な成績を挙げていたことが認められ、これらの事実に徴すると、今後においても在宅保護処分の有効性は否定し難いうえに、少年の両親は高松市に居住するが、その家庭生活には問題があるとは見受けられず、両親とも少年に対する監護の意思及び能力を失つているなどとは認められず、ことに、父親は、少年が以前に同地の右翼団体に入会した際には、少年の将来を案じ、少年を同団体から退会させるため種々奔走し結局それに成功しており、今回も、少年について在宅保護処分が行われるならば、少年を郷里に連れ戻してその監護に努力したい旨述べていることが認められ、その他少年の年齢、性格、職歴、本件各非行事件に関係した成人の共犯者らに対する処分の状況等諸般の事情を総合すると、以上各指摘の点について調査、審理を十分尽さずに、少年を特別少年院に収容すべきものとした原決定は著しく不当であるといわなければならない。

よつて、本件抗告は、その余の論旨について判断するまでもなく、理由があるから、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により、原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 金子仙太郎 裁判官 渡部保夫 仲宗根一郎)

〔参考一〕 検察官作成の送致書記載の審判に付すべき事由及び司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実

(検察官作成の送致書記載の審判に付すべき事由)

被疑少年J・Nは、右翼団体○○隊の青年行動隊員であるが、同隊隊員A、B及びCほか数名と共謀の上、共同して、昭和五七年五月一日午後零時二〇分ころ、札幌市中央区○○×丁目先路上において、日本共産党○○委員会の街頭宣伝用自動車を取り囲んだ上、同車を運転していたD(当三七年)及び同車に乗つていたE(当三八年)らに対し、こもごも「この野郎降りて来い」などと怒号しながら同車の窓ガラスに石塊を投げつけたり窓ガラスを手拳で殴打するなどして同人らの身体等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し、もつて数人共同して右D及びEらを脅迫したものである。

(司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実)

被疑者は右翼団体○○隊に所属しているものであるが、F、C、G他数名と共謀のうえ、かねてから面倒をみていた暴走族○○会長H他一名が、暴走族○△の者達に札幌市白石区○○町×条×丁目××番地、○○マンション○×号室、I方に監禁、暴行を受けたことからその仕返しのため昭和五七年五月八日午後一〇時三〇分ころ前記○○マンション○×号室、I方に赴き同室に居つたJ(一八歳)K(一七歳)L(一八歳)等に対し「お前等かうちが面倒みている○○のリーダーをさらつたのは俺の事務所に来い」などと怒号し同人等の両腕を掴むなどして強いて乗用車等に乗せて、札幌市中央区○×条○×丁目、○○ビル×階××号室、○○隊事務所に連行して床上に正座させ「てめえら生かして返さんからな」などと脅かして退去することを不能にし、もつて同日午後一一時三〇分ころまで約一時間にわたつて同人等の自由を不法に拘束して監禁したものである。

〔参考二〕 少年調査票〈省略〉

〔編注〕 受差戻し審(札幌家 昭五七(少)三三〇五号 昭五七・九・一四保護観察決定)

抗告申立書は省略した。

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